心の月ノ傷跡

ぼくは奄美に行った/奄美に「行く」なんてできるの?
ボクはそこでさまざま光景を見た/すべては影かマボロシか、あるいは・・・
音を、音楽を、声を、聴いた/海流は早く強い
言葉たちに耳を傾けた/うずまきがそこで幽かに傾いただけ
それを憶えている。触れようとしたこと。
身体に刻もうとして、触れようとして、手をのばした。
触れたこと。そしてすぐ消えていったこと。手のひらで渦巻く旋風?

ぼくは奄美を走った/ハンドルとアクセルを操作した
風景は写真と二重写しに回転した/ダッシュボードに差し出した「カピパラ」
反射する風景/反射する心
ぼくはそこでさまざまな言葉の交響を聴いた/聴いた聴いた聴いた

それを憶えていない。耳の奥で響きとなった海鳴り。
道おしえが教えたその道の経路は島のどこを巡っていたのか?
巡ったこと。恵んでもらったこと。何を憶え、何を忘れた?

ぼくは忘れた/名刺を、お礼を、恐れを、測量を
ぼくは忘れた/一切を、nothingを、忘れたことを忘れることを
ぼくは忘れた/名前を、顔を、手を、そして足の裏を
ぼくは忘れた/のかもしれない、そんなに大切なものを忘れておいてなお、

墓場の傍に川が流れ、枕もとに立つ詩人の影、顔は見えない、白い閃光を放ち口が開く
未来の本の夢、刹那の鳥影が斜めに走り、波と坂が三線の律動と声の波動にとり憑く、
満月に天秤担いだ農夫さん。この眼に天秤担いだ農夫さんが見えるのか!
月光が夜空を白くした島を/車に乗せて走る、島の教え、その優しい優しい響きを聴いた

島の教えは謎だった。答えは当分見つかりそうにない。
ただ泳ぎを覚えるために、おぼれようとしたのか。
忘れてもいい。
泳ぎを忘れて、海に入ってゆけばいい。

島でずっと歩きを困難にさせていた、あの足裏の痛みはいったい何だったのか?
忘却とひらめき 一瞬の天啓 忘れの奥底に眠る惑星ノ傷跡

すべての謎を天秤に担いで農夫さんは見つめて/見つめられて白く月に光る
浮かぶ中空 走る車 本の夢 飢え 渇き 不安 恐れ 翳り 絶海の果て
に島を夢見る 教え 学び 樹 見たことのない樹 謎 本の謎に囚われる
さまざま方角にむかって、西へ、東へ、北へ、南へ、
天空へ、底へ、未知へ、ウラへ、歌へ、写真へ、映像へ、奄美へ

奄美のことを書いたわけでも無い/奄美のことを「書く」なんて・・・
ただ言葉が浮かぶとおりに打刻した。自分の名前も忘れた。
一切は誰かの独り言のマボロシ−−

 
 
コメント

八月ではありませんでしたが、ちょうどまん丸お月様でした。

石塚千恵子さんとポルトガルの満月の話をして、
吉増先生とネフスキー『月と不死』の話をしました。
この本の話から月に映っているの影を、ウサギの餅つきではなくて、
天秤担いだ農夫さんに見えるかどうかが試されました。
わたくしの眼にかかれば、がんばれば見えなくも無いかもしれない、ぞ。といった程でした。
私の「天秤担いだ農夫さん」のイメージは、案山子のような格好となっております。
藤井さんの眼にはどのように映りますでしょうか。
ウサギの餅つきからは脱却したいですね。。

  • yosinari
  • 2006/10/18 15:16

お帰りなさい。奄美の浜や浦々で八月の十五夜の月明かりを体験したかった!

  • fujii
  • 2006/10/18 10:28

Coyoteさん、コメントありがとうございます!あと半月で開店です!ぜんぜん準備が整いません。。こちらはもうストーブを点けています。寒くなる前にもっと準備を進めなければと思っております。

  • yosinari
  • 2006/10/16 08:56

いいね、これは! もっと書け、どんどん書け、無限に書け、黙り黙り書け、鉛筆で書け、釘で書け、指で砂に書け、雪に書け、書けるもんなら風や犬の腹にも書け、海面にも、テーブルにはこぼした水滴で書け、消えたてかまわないから、どんどん、どんどん! 

ところであと半月で開店かい? のんびりがんばってくれ。

  • Coyote
  • 2006/10/15 17:09

あいや、そんなことないです。すみません。。

  • yosinari
  • 2006/10/15 01:23

いいね。詩人だね。素晴らしい。僕には無理だけど、やっぱり詩の言葉でしか核心はつかめないのかな、あの体験は。いやー、凄い!

  • 三上
  • 2006/10/14 13:47
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