札幌の古本屋の窓辺から 〜古書出張買取りの書肆吉成

北海道札幌市の古書店・古本屋です。専門書・学術書・美術や趣味の本など古本古書を買取ります。出張買取もしております。
札幌市東区北26条東7丁目3−28 011−214−0972
 ■札幌の古本買取専門店 書肆吉成  

 ■在庫一覧(新刊本・古書)

 ■日本の古本屋登録書リスト

 ■古本紹介

   メール yosinariアットsnow.plala.or.jp
  電話 011-214-0972   携帯 080-1860-1085
  FAX 011-214-0970
  営業時間・12時〜17時(日曜日定休)

 古本古書出張買取り致します。
 お気軽にご連絡下さい。
 
<< 「吉」の字 | main | お部屋 >>
勝利が見たいんじゃない、奇蹟が見たいんだ。奇蹟とは確率の低いことの実現ではなく、何かの顕れそのもの。その感動。
ついに古本屋独立に向けてスタートを切った。
昨日は札幌古書組合の新体制の初競り。
市場には多くの本と多くの書店さんが集まり、通常市とは思えない熱気だった。
そう、たしかにセリは活気に満ちていた。そんななか、私は一人、またべつの炎を燃やしていた。いや、くすぶっていたと言ったほうが精確か。
というのも、この日はわたしにとって自分の古本屋独立に向けての初競りでもあったのだ。

今月のはじめ頃、いま勤めてる古書店の社長との話のなかで、唐突に切り出した独立宣言。社長はそれを理解し、応援してくれると言ってくれた。
その日から独立に向けて急に考えて組み立てていかなければならないことが増えた。
今の古書店は11月1日付けで退社することになった。
それから先は自分の力で食べていかなければならない。できるのか?望むところよ。

もう一年以上も通った月一回の札幌のセリ場だけど、それは勤めの古書店の暖簾(のれん)のおかげであった。東京の中央市会にも連れて行ってもらった。わたしのような経験の浅い足手まといに、本当に良くしてくれた。他の古書店では考えられない経験をさせていただいたと思う。おかげで札幌の古書店のご主人たちに顔を覚えてもらい、少しお話してもらえるようにもなった。昨年度は事業部の仕事も手伝わせてもらえたので、会場作りの仕事も少し覚えた。セリ場で稀少な本を見たり、手にしたり、時には金額を書いて札を入れることもさせてもらった。会場係だったので開札はなんどもやり、熾烈な数字の戦いの胴をとった。びっくりする高値の本の組に、どの本が効き目なのか聞くこともできた。みなさんとても親切に教えてくださった。とても幸せな時代だったと振り返る。本当に感謝がこみあげる。

このたびセリ場で痛感したことは、これまでのわたしの意識の低さだった。
わたしはこの幸せな環境を、まるで観光客のように過ごしていたのかもしれない。
じっさい身銭を切って本を買う戦いをしている方々には、わたしは不躾に映っただろう。
勤めの古書店の看板と、暖簾に一枚守られて、実際わたしはセリ場に身を晒していなかった。
本の値段、人の気配、空気のテンション、駆け引き、真剣勝負。
わたしはその渦中にいながら、まるで能天気だったのだ。

社長に、自分の独立の為に買いたい本があったら札を入れていい、その分の金を後で払うのなら、と言われ、嬉しいと同時に戸惑った。
まず金がない。セリ場で戦えるだけの金がないのだ。
まだ自分の店もないので、たとえセリで本を買っても、それがいつ利益になるかというと、少なくとも11月の独立以降(独立までに5回セリがある計算だ)。それまで寝かせておかなければならないのだが、それはとても悠長なことに思われる。独立にむけて本も欲しいけど目先の金が欲しい時期でもあるのだ。

しかし、こんな心配をしているのはある意味で立派なことである。
もっと重大な問題は、セリで戦えるだけの本の知識がまったく不十分だということだ。
それを痛感した。ヒリヒリするくらい素肌で。魂が孤独と不安に押しつぶされそうだ。
それまで親しく見えていたセリ場の本が、突如わけのわからないものになったのだ。いくら入れるのが適正なのか。いったいこの本の力はどれくらいあるものなのか、測れないのだ。本を前に立ち往生する。本が不気味に見えて、くらくらした。ワカラナイ。怖い。

それでも本を買わなければ、何も始まらないのだ。それが古本屋だ。
本を買って、本を売ることで、はじめて生計が成り立つ。
だからとにかく買わなければ売ることもできない。
本を買うのが商売なのだ。しかし、買うにしても値段がわからないんじゃ話しにならないじゃないか!
なんでもいい、とにかく買うんだ。安いものだ。今のオレは金が無い。利益が薄くてもまず自分の身の丈で買えるものを、なんでもいい、買うんだ。怖くても買うんだ。不気味な本を手に入れろ。未知に飛び込め。セリ場の混沌とした熱気も相俟って、会場全体が渦巻いて、ぼくはその渦に完全に飲み込まれてしまった。

ものすごい不安から、勤めの古書店をバックにつけて本を見てた今までには全く見向きもしないような、本当に弱い本の一縛りに自分を重ねた。これを買おう。これが今の自分の力だろう。その本を買おうと思っていることを恐る恐る上司に相談した。そしたら(もちろん)一喝された。あんなの買ってどうするの!?ごもっともでございます。これで少し救われた。気を取り直す。本がさっきより少し見えるようになった。まだ不安が残るけど、少なくとも前向きになったと思う。

小ぶりだけど、北海道関係の基本図書が組まれた一縛りの本がある。
封筒には「止め」の値段(これ以下では売りませんよ、と出品者が書く希望最低価格)が書かれてある。これは買い易い。上司と社長にこれを買おうと思いますと言い、まぁ(金額を)入れてみろと言ってくれたので、止めの値段ぴったりを入れた。これも通常あまりやらないことで、大抵は「ヒゲ」といって、端数の金額を書き足すのだ。
正直赤裸々にいうと、その一括は止めが3000円と書いてあった(たった3000円と笑うなかれ)。
そこで僕は3000円ぴったりの数字を一つだけ書いて、折って、封筒に入れた。
本来一万円未満の札を入れるときは上札と下札の2枚札まで書ける。
この場合だとたとえば、4,190 3,190と二通りの数字を札に書ける(この190円が「ヒゲ」)。
そして他の人と戦って、高い値段を入れた方の勝ちとなる。
僕は3000円ぴったりしかいれなかったので、ヒゲをつけて他のだれかが入札したら、僕はあっさり負けるのだ(上の例だと3190円でべつの人に取られる)。
それほど腰の弱い札を入れた。それが今の僕の手一杯。
この一括りの本がそうだとは思えないけど、一般の相場より高い値段で買ってしまうことだってあるのがセリなのだ。そしたら赤字。商売とは言えない。

そして開札され、その一括りは、僕の手に落ちた。

これからはじまるのだ。
のちに紐の括りを解いて本の中身を確認し、蔵印や見返しの切り取りがあって愕然とした。なんで入札の前に確認しなかったか。こんな凡ミス、普段ならゼッタイしないのに。テンパって焦っていたのだろう。社長は、それも勉強だ、次に生かせと言ってくれた。本当にそうだ。ここから始まるんだ。トータルで損はしないだろう。それほど得もしないだろうけど。でも本を買えてよかった。ぼくはこの本を信じる。とにかくスタート出発をしたんだ。ここからはじまるのだ。
| - | 23:59 | comments(2) | trackbacks(0) |
コメント
心から応援します。
| kai | 2006/07/01 11:43 PM |
戦っているんだね
もう一つのワールドカップが静かに始まっているね
古書の世界で
| opo | 2006/06/29 10:11 PM |
コメントする









この記事のトラックバックURL
トラックバック機能は終了しました。
トラックバック
CALENDAR
S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< July 2020 >>

SELECTED ENTRIES
RECENT COMMENT
LINKS
ARCHIVES
RECENT TRACKBACK
モバイル
qrcode
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
熱帯雨林の彼方へ
熱帯雨林の彼方へ (JUGEMレビュー »)
カレン・テイ ヤマシタ, Karen Tei Yamashita, 風間 賢二
RECOMMEND
“関係”の詩学
“関係”の詩学 (JUGEMレビュー »)
エドゥアール グリッサン, ´Edouard Glissant, 管 啓次郎
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
へんな子じゃないもん
へんな子じゃないもん (JUGEMレビュー »)
ノーマ フィールド, Norma Field, 大島 かおり
RECOMMEND
RECOMMEND
CATEGORIES
PROFILE