札幌の古本屋の窓辺から 〜古書出張買取りの書肆吉成

北海道札幌市の古書店・古本屋です。専門書・学術書・美術や趣味の本など古本古書を買取ります。出張買取もしております。
札幌市東区北26条東7丁目3−28 011−214−0972
 ■札幌の古本買取専門店 書肆吉成  

 ■在庫一覧(新刊本・古書)

 ■日本の古本屋登録書リスト

 ■古本紹介

   メール yosinariアットsnow.plala.or.jp
  電話 011-214-0972   携帯 080-1860-1085
  FAX 011-214-0970
  営業時間・平日10時〜18時(日祝は12時〜18時)

 古本古書出張買取り致します。
 お気軽にご連絡下さい。
 
<< 木下龍也×岡野大嗣「玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ in SAPPORO」 | main |
くすみ書房の本棚のこと

くすみ書房から引き継いだものがある。

ねずみ色のスチール製の本棚だ。

東区本店とIKEUCHI GATEの2つの店でぎっしりと本を並べているそれらは、

くすみ書房大谷地店が閉店するときに貰いうけた。

2015年6月。突然のクローズの報せに、皆が驚いたあの日からすでに3年が過ぎ去った。

 

IKEUCHI GATE6F店のねずみ色の本棚には茶色いサビがういている。

ピカピカだったくすみ書房の棚は、この店ができるまでの約2年半のあいだに札幌市内の車庫、アパートの一室、小樽市の一軒家と場所を移し替えたが、そのなかで棚は急速に古びていった。

サビが出始めたことに、私はとちゅうから気づいていたが、そのときはどうすることもできなかった。

わざわざ久住さんにお願いをして貰いうけたものだが、じっさいには本棚を設置する場所がなかったのだ。

使う予定のない本棚は、大量の鉄の固まりとして倉庫の暗がりのなかで沈黙していた。

置き場所に困るといえばその通りで、持っているだけで毎月家賃がかかるのだから、早々に処分するのが通常だろう。

しかし、私はそれを捨てる気になれなかった。

どうにかして、生かしたかった。

もう一度この本棚に本を並べたかった。

 

「鉄製の本棚は冷たいかんじがして好きじゃないんだ」

くすみ書房が経営危機に直面したとき、打開策としてクラウドファンディングで資金を集め、それで店内のリニューアルをおこなった。

目玉は、木製の特注本棚の設置だった。

くすみ書房を訪ねると、いつも久住さんは私に今後の展開、構想を楽しそうに話して聞かせてくれた。

そのときは、どこかの書店の写真を見せてくれながら、こんな本棚を作ろうと思っているんだ、と教えてくれた。

その本棚は大きい枠組みで背板がないため本棚の向こう側が見える造りになっていた。

明るく、温かみがあり、風通しのよい本棚に、本がゆったりと、丁寧に並んでいた。

 

鉄製の本棚は棚の高さが変えられるので、効率的に本を並べることができる。

文庫本の高さ、単行本の高さにぴったりと合わせられて、滑りもいいので本の入れ替えも楽だ。

しかし、木製の棚はそうはいかない。決して効率的ではない。

にもかかわらず、久住さんは木の本棚のぬくもりを選んだ。

 

くすみ書房の閉店を惜しむ人でごった返すなか、

私は忙しそうに行き来する久住さんを掴まえて、

図々しいお願いですが、この鉄製の本棚を頂戴できませんでしょうかと、申し入れたとき、

久住さんは嫌な顔ひとつせず、二つ返事で了承してくれた。

私は、背が高くて本をたくさん並べられるタイプの本棚だけ貰えれば、自分の店や倉庫で効率的に本を保管できると思っていた。

ところが久住さんは、背の低い本棚や、雑誌の表紙面を陳列する棚を指さして、これも持っていくよね、と当然のように言った。

今度は私が二つ返事をする番だった。

 

いよいよくすみ書房の閉店時間が過ぎたとき、久住さんは最後まで残ったお客さんに向かって挨拶をしたようだが、私は立ち会わなかった。

私はどこかで「まだ終わっていない」と思っていた。

終わらせてはならない、閉店の言葉など、この耳に入れてはならない。

なぜなら、私はこの本棚で、これからも本を売り続けるのだから。

 

本棚を解体して、どうにか手配した車庫に運び出す作業は夜中おこない、記憶ではたしか二晩を要したはずだ。

木製の特注本棚については、また書店を再起したときに使うつもりだからこれはあげられないよ、と久住さんから言われたとき、うれしかった。

くすみ書房が再起できる目算があるのだと思ったから。大きな希望を感じた。

しかし、その後くすみ書房の倒産が報道され、負債総額が約5億円と知ったときは心臓が飛び出るほどに驚いた。

再起なんてできるのか・・・?

それからはきっと何かと忙しいだろうと、こちらから久住さんに連絡をとるのを控えた。

本当のことをいうと、どんな顔して会えばいいのか、わからなかったのだ。

 

翌年8月、書肆吉成はわずかな距離だが(道路を挟んだ斜め向かいへ)移転することになった。

その際に、車庫やアパートの一室に詰め込んでいた本棚の一部は移転先で利用することができた。

はじめは人目につかない倉庫で利用するつもりだったから、お客さんの目に触れるお店で使えることになっただけでも望外の喜びがあった。

しかしなお、新しい店に設置できなかったもの、背が低い棚、雑誌を面出しする棚が倉庫に残された。

 

その翌年、2017年2月23日。私はひさしぶりに久住さんに電話をした。

本棚のお礼をしたかったのだ。円山茶寮という喫茶店で会うことになった。

久住さんはちょうどその前月頃かに裁判所での債務免除がおわったと言って、閉店からこれまでどんなふうに過ごしてきたか一通りを聞かせてくれた。すさまじい苦労があったことがわかるお話だったが、それでも久住さんは深刻がることなく、淡々と、ときにはユーモアさえ交えてお話してくれた。すごい精神力だとおもった。

さらに、これから出版社との直接取引で新しい本屋を作るつもりだと、今後の構想を話しはじめた。

ちかく京都へ本屋の視察に行いくと。店の名前も考えている。Books Greenというミシマ社の本があって、その名前がいい。

原稿も書いていることも教えてくれた。

 

半年後の葬儀で、私は号泣していた。

 

2018年2月、書肆吉成IKEUCHI GATE6F店がオープン。くすみ書房の本棚がすべて甦る。

このあたらしい本屋がはじまって、6ヶ月が経った。

 

2018年8月28日。久住邦晴さんの命日に、新刊『奇跡の本屋をつくりたい くすみ書房のオヤジが残したもの』がミシマ社より刊行される。

その刊行を記念して、書肆吉成IKEUCHI GATE 6F店内ギャラリーにて「くすみ書房」展を開催。

そして発売日に合わせてトークイベントを開催する。

中島岳志さん、矢萩多聞さん、三島邦弘さん、クスミエリカさんが登壇する。

 

くすみ書房から、私はまだ引き継ぎたいことがある。

だから、久住さんがいったい何を考えていたのか知りたいと思う。

私もまた一人の「町の本屋」であり続けるために。

| - | 20:06 | - | - |
CALENDAR
S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      
<< September 2018 >>

SELECTED ENTRIES
RECENT COMMENT
LINKS
ARCHIVES
RECENT TRACKBACK
モバイル
qrcode
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
熱帯雨林の彼方へ
熱帯雨林の彼方へ (JUGEMレビュー »)
カレン・テイ ヤマシタ, Karen Tei Yamashita, 風間 賢二
RECOMMEND
“関係”の詩学
“関係”の詩学 (JUGEMレビュー »)
エドゥアール グリッサン, ´Edouard Glissant, 管 啓次郎
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
へんな子じゃないもん
へんな子じゃないもん (JUGEMレビュー »)
ノーマ フィールド, Norma Field, 大島 かおり
RECOMMEND
RECOMMEND
CATEGORIES
PROFILE