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「高橋揆一郎の文学 北の大地に生きて」展を見て。―北海道の炭鉱世界の人びと―




北海道立文学館で開催中の特別展「高橋揆一郎の文学 北の大地に生きて」を見てきました。

高橋揆一郎(1928-2007)は歌志内生まれの芥川賞作家です。
北海道の炭鉱の生活を描きました。
鉱夫の家庭で炭住長屋に育ちますが、6歳で母を亡くし、13歳で坑内事故で父を亡くします。
翌年の14歳から俳句、詩、小説の創作をはじめました。
紆余曲折をへて炭鉱に就職してからも文学作品の執筆をつづけます。
しかし作家として一般に認められたのは遅く、45歳(1973年)のとき「ぽぷらと軍神」が「文学界新人賞」を受賞してからです。
その後、49歳「観音力疾走」で北海道新聞文学賞を受賞し、50歳(1978年)「伸予」で芥川賞を射止めました。

― 小説家としてのデビューは、炭鉱社会が相次ぐ閉山や事故災害で衰退していく1970年代に重なります。―(北海道立文学館同展チラシより)


作家デビュー以前の高橋揆一郎は、イラストレーター・漫画家として活躍していました。
また、後年(1994〜2002年)は神田日勝美術館の二代目館長を務めています(初代は米山将治氏)。

同展では、高橋揆一郎が生きて描いた炭鉱の人たちの失われゆく風俗を、実際の炭鉱資料を交えてイラストと作品解説などによって紹介する展示がされていました。

展示会場に入るとすぐに、炭鉱長屋に足を踏み入れたかのような濃厚な生活空間の気配を感じはじめます。
北海道の炭鉱が地図のうえで紹介され、新聞スクラップや直筆原稿、揆一郎によるイラストなど、多角的に展示されていますが、
なかでも『炭炎』、『炭層』、『炭道文学』、『硑山』(=ずりやま[石]+[并]山)、『赤い崖』、など炭鉱の文学同好会誌(サークル誌)からは、紙や印刷のふるびれた雰囲気もあいまって、炭鉱に生きた多くの人たちのいぶきが一気に立ち上がってくるかのようでした。

豊富なスケッチ画は、さすがイラストレーターとして活躍してきただけあって人々の様子をよく捉えていて、取材ノートと同様に、人物を見る目のきめ細かさと優しさを感じさせるものでした。

中盤に入ると、「友子」と呼ばれる炭鉱の共同体にまつわる資料や、実際に坑内で使われていたタガネや槌やツルハシやカッチャなどの道具、さらに立派な石炭の塊(揆一郎所蔵)がどーんと展示してあり、モノそのものの力強さに圧倒されました。

用語解説の展示からは、炭鉱特有の語彙やイディオムにこめられた生活世界の心象や信仰(迷信?)や縁起かつぎがよくわかり、ことばを通じてそこに生きた人たちの息づかいが響いてくるようです。

さらに、神田日勝美術館から絶筆の大作『未完の馬』が飾られていたのは大変な迫力でした。
札幌で実物をお目にかかれる機会は少ないので、とてもうれしかったです。毛並みの筆致がきれいでした。
「馬」は北海道の「近代」を考える上で重要な二つ側面の内、「炭鉱」ともう一方の側面である「開拓」に大きな役割を果たした動物であり、炭鉱と同様、北海道の近代、ひいては日本の近代に大きな足跡を残しています。
ホッカイドウ・マガジン「カイ」vol.12の「馬が拓いた北海道」特集は大変興味深い内容でした。)

最後のコーナーは高橋揆一郎の書斎や奉られていた神仏なども紹介され、揆一郎文学のミクロコスモスが生まれてくる仕事場の様子がわかりました。
本や辞書と神仏がいっしょに置かれた雑然とした書斎になかば埋もれるように揆一郎が文机に向かっており、その背中は、そのほうが座りやすいのか座椅子が二つ重なった状態で揆一郎を支えていたのがなんとも可笑しかったです。


高橋揆一郎の文学は、原点である炭鉱世界を母胎として生まれたのだなぁと思いました。
かつての炭鉱の活気や活力が伝わってくると同時に、いったん文学世界に入りこめば、変わり者もいれば後ろ暗い過去を持つ人もいて、いろんな事情をかかえた多種多様な人が描かれており、肉体労働から給仕まで、こどもから大人まで炭鉱生活を共にしていたのだなぁと思いました。
また、ガス爆発などの痛ましい事故も忘れられません。
「友子」と呼ばれる独特な互助組織・共同体での人づき合いの機微はたいへん複雑ですが、
揆一郎の文学は、真正面から「人間」を描いています。
文学が描く「人間」の、力強さと普遍性を感じます。

ところで数年前、目黒区立美術館では「'文化'資源としての<炭鉱>展」という展覧会が催されていました(担当学芸員:正木基氏)。
実際の展示は見れませんでしたが、大部のカタログをテンポラリースペースの中森敏夫氏に見せてもらったことがあります。
その圧巻のカタログとともに炭鉱世界の分厚い存在感を感じたことを、高橋揆一郎の文学展を見ながら思い出していました。
それに対してこの展覧会は、高橋揆一郎の文学と絵による「北海道炭鉱展」とでも言ってしまいたくなるような充実ぶりでした。
それはとりもなおさず「北海道の近代を生きた人たち展」であり、「日本の近代を支えたのち国のエネルギー政策の転換によって衰退・消滅させられた生活空間を生きた人たち展」であるのだと思います。

高橋揆一郎という一人の文学者を通して、かつての北海道の炭鉱世界に生きた人たちを感じることのできた、とても興味深い展覧会でした。



展覧会のカタログは、担当学芸員の浅川泰氏をはじめ、工藤正廣、平原一良、佐久間淳史、菅訓章、久米淳之の各氏によるテキストの他、ほとんど絶版になっている高橋揆一郎の小説作品のアンソロジーと解題、さらに「炭鉱用語・信仰、縁起かつぎ」、年譜が収録された総176頁の充実の図録になっています。
収録作品は以下の6篇。
「氷かんざし」
「観音力疾走」
「無縁の雨」
「地底の女に」(『地ぶき花ゆら』より)
「友子 十四」(『友子』より)
「未完の馬 二」(『未完の馬―夭折の画家、神田日勝』より)

これで頒布価格1500円。
お買い得ではないでしょうか。
さらにうれしいことに、図録を買おうとカウンターへ持っていきましたら、「こちらは図録をお買い上げの方へ差し上げております。ご遺族の方からの付録の品です」とポストカード・セットを付けて下さいました。
こういったあたたかい心づくしが、高橋揆一郎の文学に現れてくるのだなぁと、感心しきりでございました。


期間は3月24日までとのこと、
ぜひまた見に行きたいです。


北海道立文学館
特別展「高橋揆一郎の文学」



ちなみに、書肆吉成が発行しているアフンルパル通信の11号には、詩人・翻訳家のヤリタミサコさんの『炭坑の春 と でくのぼー』と『炭住の共同水道』というテキストを掲載しています。
こちらは三笠のほうの炭鉱世界を描いたテキストです。
500円で販売しております。こちらもどうぞよろしくお願いいたします。



表紙・写真/伊藤隆介
題    字/吉増剛造


もくじ
山田 航 「水銀遊戯」「長歌・歌え白鳥座」
小川 基 「先人達へ今を生きる旅」
露口啓二 「書評保苅実『ラディカル・オーラル・ヒストリー』『保苅実写真展:カントリーに呼ばれて』」
宇波 彰 「投果とカンディンスキー」
関口涼子 「固有名詞が意味を持つとき」「近づくための距離」
ヤリタミサコ「炭砿の春 と でくのぼー」「炭住の共同水道」
管 啓次郎 「Agend'Ars」
中村達哉 「宮木さんと歩いた宇宙」
宮木朝子 「音―像・光―景を聴く。」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
アフンルパル通信11号
32ページ(表紙含め)

2011.5.20発行
編集発行:書肆吉成 吉成秀夫
制作協力:かりん舎

定価500円


ご注文を承っておりますので、ご希望の方はメールにてご注文ください。
yosinariアットsnow.plala.or.jp
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